働きアリの流儀

日本、タイ、米国の企業で働く3人組が日々の気づきを綴っています

自然と生きる人間

こんにちは。

今回は、自然と人間の共生について考えていきます。私たちの生活の中で、自然がどれだけ重要な役割を果たしているかは多くの人が認識していることと思います。

1. バイオフィリアとは?

Biophilia(バイオフィリア)という言葉を聞いたことはあるでしょうか?この言葉は、1980年代にハーバード大学生物学者であるEdward O. Wilson氏によって提起されたコンセプトで、生命愛や自然への愛という意味があります。これは、人間は本能的に自然とのつながりを求める欲求があることを指しています。

コロナウイルスによる外出規制が続いている中で、このバイオフィリアの考え方はますます注目を集めています。Robertson Cooper社が行った調査では、私たちが多くの時間を過ごすオフィスにバイオフィリアの概念を取り入れた場合に期待できる効果は、「幸福度の向上」、「生産性の向上」「創造性の向上」の3つであると報告しています。

具体的には、オフィスで自然と接する機会がない人に比べて、自然と接する機会がある人のほうが幸福度が15%高く、観葉植物や日光を多く取り入れているオフィスの方が、そうではないオフィスに比べて生産性が6%、創造性が15%高いことが分かっています。

2. バイオフィリアを導入した企業のオフィス

バイオフィリアの考え方を導入したオフィスは国内外で増え始めています。例えば、私が働く会社のあるシアトルに本社をもつAmazonでは、Spheresと呼ばれる球体型のワークスペースがあります。この建物には世界中から4万本以上の植物が集められており、熱帯林の環境が再現されています。このSpheresでは、従業員は会議をしたりコーヒーを飲んでリラックスすることが出来ます。

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Amazon Spheres

日本の農業機械メーカーであるヤンマーも、本社ビルにバイオフィリアの考え方を取り入れています。最上階に設置されたガラス張りの都市養蜂や、建物中央の螺旋階段を活用した自然換気システム、水が流れるエントランススペースなど、自然を模した景観や自然の要素が織り込まれています。

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ヤンマー本社ビルのバイオフィリアを取り入れたデザイン

www.yanmar.com

3. 緑視率とは?

バイオフィリアに関連して、緑視率という指標もあります。緑視率とは人の視界に占める緑の割合を測る指標で、豊橋技術科学大学の松本博名誉教授の研究の結果では、オフィスにおける緑視率の最適値は「10~15%」であると導き出され、この数値において従業員の生産性が最も高まったと報告しています。 

www.pasona-pbs.co.jp

オフィス内の緑視率を高めるメリットは他にもあります。例えば、人間がストレスにさらされた際に分泌されるコルチゾールというホルモンの増加率が、植物がある空間と無い空間で大きく異なることから、植物には心理的にも生理的にもストレスを軽減させる効果があると考えられています。また、NASAが発表した実験結果では、植物がホルムアルデヒドベンゼンといった化学物質を吸い込むことで、頭痛・めまい・倦怠感などの症状を引き起こすシックハウス症候群の予防・改善が期待できる報告しています。

4. 自然との本来あるべき付き合い方

 リモートワークが普及するにつれて、自宅に観葉植物を購入する人も増えてきているようで、観葉植物の売上はコロナ前に比べて1.2倍から1.5倍に増えているというデータもあります。興味深いことに、園芸は不景気だと需要が増えるというのは歴史的な傾向なようで、人間が本能的に自然を求めていることを裏付けています。

しかし、バイオフィリアや観葉植物などで私が少し疑問に思うのは、人間は自分たちにとって都合のよいように自然を取り入れているということです。植物の世話が面倒だから人工の観葉植物を買うというのが一番わかりやすい例だと思います。

本来、自然は私たち人間を包含する大きな存在であり、地球生命体の一部に過ぎない人間がコントロールすべきものではないのかもしれません。しかし、最近ではクラウドシーディング(人工敵に雨を降らせる気象制御)の技術によって水不足の解消や山火事の昇華、猛暑の抑制を行うという研究が進められるなど、テクノロジーによって自然を制御するという動きが加速しつつあります。

もちろん背に腹は代えられないのですが、本当の意味での人間と自然の共生について改めて考える時期に来ているように感じます。宮崎駿の名作の一つである「風の谷のナウシカ」には「腐海」という有毒の瘴気を発する菌類の森が登場します。これは、環境破壊の結果として描かれていると同時に、腐海の木々が人間が汚した世界を浄化しているというメッセージでもあります。

私たちが今後の自然との共生について考えるべきなのは、人間が自然からの恩恵を受けるだけでなく、どれだけ人間が自然に対して貢献できるかのように思います。SDGs(持続可能な開発目標)が叫ばれて久しいですが、人間(自己)を中心とした考え方は、自然(他社)との相互関係の中ではどこかで綻びを生んでしまうものです。これは普段の人間関係にも共通するように思います。人間が自然から学べることはまだまだ多そうです。